私が紙漉きを始めたのは15年ほど前、当時北海道で農業のアルバイトをしていたのですが、その時いつも持っていたのが、今お世話になっている黒谷で漉かれた楮の紙で、絵を描いていました。冬も近づき、農業の仕事も来夏までないということで、興味本位で冬の仕事と言われる紙漉きをしてみようと思ったのがきっかけです。
それから、早いもので15年。紙漉き3年目で結婚し、子ども3人、家族5人で京都北部の綾部市で築100年の古民家に住み、田舎暮らしをしています。
私の漉く紙は、いわゆる昔から漉かれてきた楮という植物からできる和紙です。素朴です。紙は作る段階で様々な形に変える事ができますが、極力何もせず、楮の力をできるだけ紙にこめたい思いで漉いています。なので、紙を漉いている時点では作家ではなく職人です。素材屋としてお客さんにとって頼れる素材を早く確実に漉くことを心がけています。
そうやって、約10年ほど、必死で紙を漉いてきたのですが、ある時、同世代の方が和紙の使い方をあまり知らないと言うことに気づきました。自分はどうかというと、実のところ楮紙の使用用途、特徴、強度等々、絵画という狭い分野でしか理解していなく、これでは何も伝えれないと積極的に自分で自分の漉いた和紙を使い、和紙の事を伝えようと全国のクラフト市や展覧会を開催しはじめました。ずっと紙漉きを続けたい思いからです。
和紙のことをデータ化して伝えるだけでは、伝えきれない部分があります。それは、人の暮らしの中にどのように和紙とかかわってきたかと言うことです。和紙が生まれる時、和紙が暮らしの中で使われるとき、そこには自然と人の密接な関係があるように感じます。つまり、人は自然の力を信じ、だからこそそこから生まれてくる和紙の力を信じて長い年月付き合ってきました。
また、日本の家は木と紙と土からできていると言われます。たった3つの素材です。木は紙となり、紙は土となり、土は木となり・・・。少ない素材が相互の特徴を補い合い、高めあい、美しい家屋を作るのです。現代の人が感じる自然素材と昔の人が感じていた自然素材では概念が違うように感じます。素材の力を信じていたからこそ、3つの素材で足りていることを知っていたのでしょう。後は創造性ですね。創る和紙職人と名乗っているのも、そのような憧れがあるからです。
最近は、ダイレクトに感じれる内装材としての和紙を軸に紙漉きを行い、同時に施工も行うようになりました。いつでも襖絵を描けるように絵画の制作もつづけています(現在、2つのお寺と民家から依頼があります)。クラフトの方面では、暮らしの中で和紙を使っていただき、その魅力を感じていただきたい思いで制作をしています。また、紙漉きだけでは食べていけないとはじめたデザインの仕事も「点工房デザイン室」という名前で活動しています。地元の仲間達と手作り市をはじめたり「志賀郷田舎手作り三土市」、震災ボランティアの活動からはじまった「小さなきもちプロジェクト」では、持続可能なくらしの勉強会なども開催し、原子力やお金に頼らないくらしつくりを考える機会を作ったりしています。 くらしは和紙だけでなく様々な要素から成り立っていて、そのどれもが、私にとって大切で、その事が表現活動につながっていけばと思います。昔から紙は夏の間漉く事ができませんでした。(今は通年漉いています。)人は生きるために仕事をするのであって、仕事するために生きているのではない。そんな事を紙漉きを通じて学んでいるように思います。
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